感染予防対策のページ

 まずはコチラの記事のご紹介からはじめましょう。

平成26年5月18日の読売新聞の1面です。

 内容を要約すると

・器具を交換しないと院内感染を起こす。

・器具の交換についてアンケートをとったら、回答率が28%だった。

・患者さん毎に器具を交換している医院は34%だった。

ということです。

 器具を患者さん毎に交換するのは非常に大変な労力を必要とします。もう、その辺は意地になってやっていく感じですね。つまり、器具を交換している医院にはそのことに対するプライドがあるってことです。ウチでもそうですけど、アンケートの申し込みがあったら喜んで回答するでしょうね。逆に、交換していない医院ではどうかというと、みんな交換しなきゃいけないことはわかってるんですよ。でも、できない・・・。つまり、うしろめたいのでアンケートはゴミ箱にポイですね。

 つまり、回答しなかった72%の医院では、器具の交換はしていませんので、結局器具の交換をしている医院は28%×34%で9.5%ということになります。ざっくり言うと10軒に1軒。これはかなり信憑性のある数字ですね。感覚的に正しいことがわかります。

結論その1 患者さん毎に器具を交換しているのは10軒に1軒!

さて、次に3枚の写真を見てもらいましょう。

 左右の写真は「滅菌バッグ」という袋に器具が入っています。これを見るとみなさんもなんとなく清潔そうな感じがするのではないでしょうか。ところが、ここに大きな落とし穴があるのです!

第1の落とし穴 滅菌バッグの中はなかなか清潔にならない!

 そもそも滅菌というのは、高温高圧の蒸気で細菌を殺すことなのです。もっとも大切なことは、清潔にしたい場所に蒸気が触れること。では、滅菌バッグの中に蒸気は入るんでしょうか?答えはイエス。ちゃんと蒸気は入っていきます。ただし、白い側から入るんです!右端の写真でいうと、裏面から蒸気は入る!ということは、右端写真の基本セットで一番清潔なのはトレーの裏!金属トレーにさえぎられて、そのほかの器具には蒸気があたりません!つまり、器具は汚染しているんです!

 では、左の写真はどうでしょう。歯を削る器具(ハンドピース)は非常に複雑な構造をしています。特に滅菌が難しいのがハンドピースの内側です。ここを滅菌する方法は二つあります。一つ目はクラスBという真空ポンプつきの滅菌器で滅菌する。もうひとつはクラスSの滅菌器でハダカのまま滅菌する。クラスBの方が確実な滅菌が得られますが大きな欠点があります。滅菌時間が非常に長くかかることと、同時にたくさん滅菌できないことです。ハンドピースは非常に使用頻度の高い器具なので(ほとんどの患者さんに最低1本は使う)この欠点をカバーするためには何十本というハンドピースを用意しなければなりません。ちなみに、このハンドピースのお値段1本10万円から20万円以上します!ということは、患者さんのすごく少ない医院か大富豪の医院でないと、この方法ではやっていけないのです。

 器具の滅菌のために全国の歯科医院を見学に行きましたが、きちんとやっている医院のほとんどが後者の方法、つまりハンドピースはハダカのままクラスSで滅菌するという方法を取っています。それでも、必要なハンドピースの本数は30本以上になります。少しずつ買い足して、買い足して、ようやく患者さん毎にすべてのハンドピースを交換できるようになりました。

第2の落とし穴 滅菌器には得意不得意がある

 大学では教えないとても大事なことは、滅菌器には種類があるということです。高圧蒸気で滅菌する方法が最も一般的で、このための器械を「オートクレーブ」といいます。オートクレーブにはクラスB、クラスS、クラスNの3種類があります。ほとんどの歯科医院にはクラスNのオートクレーブがあるのみです。クラスNで滅菌できるのは棒ものといってミラーやピンセットなど複雑な形ではないものです。ハンドピースなどの中空のものや複雑な形状のものは滅菌できませんし、もちろん滅菌バッグの中も滅菌できません。ところが例の新聞記事が出た後、このクラスNオートクレーブがバカ売れしたんです!なんと最大2年待ちの状態にまでなりました!

 これはもう、メーカーのモラルの問題ですよね。勉強しない歯科医師も悪いけど、「売れりゃいいんだよ」で売りまくっちゃうのも問題です。だって、被害にあうのは患者さんだからね。

結論その2 滅菌しているから安全とは限らない!